歯科保険診療崩壊

2020年度歯科診療報酬改定についての冊子が保険医協会から送られて来まして、内容をざっと確認いたしました。どう考えてもおかしな点数の改定内容に、患者さんにも知っておいて欲しいと考え、記事にすることに致しました。

健康保険では材料費すら払われなくなった。

金銀パラジウム合金といういわゆる銀歯の材料が日本の歯科医療において使用されています。金銀パラジウム合金とは、名前の通り、金・銀・パラジウムなどの金属が入っている合金ですが、近ごろの貴金属の高騰(特にパラジウム)により、金銀パラジウム合金の仕入れ値より、歯科保険点数の値段が低く、歯科医院は治療すればするほど材料費によって損をしてしまう状態が続いております。そして、この度の歯科診療報酬の改定でも、その状態は解消されておりません。要するに、国は歯科医院がボランティアで患者さんに金属をプレゼントしなさいと言っていることになります。

具体的にはどれくらいの価格差なのか。

金パラ逆ザヤ問題

上のグラフに載せた通りですが、2020年4月の段階で、金銀パラジウム合金30gの購入価格90,250円(相場)に対し、歯科診療報酬は62,490円となっております。およそ31%の価格を歯科医院持ちにしなさいということです。普通に考えて、原価をこれほど大幅に割った価格設定があり得ないということは子供だってわかることです。ちなみに、一般的な保険診療中心の歯科医院の場合、金銀パラジウム合金は1か月で数百グラム程度使用するはずなので、1か月で数十万円単位のボランティアを強いられることになります。

健康保険診療では、ますますまともな治療が受けられなくなる。

歯科保険診療において、銀歯の治療はメインとなる治療です。その治療を行うごとに、材料費でどんどん損をしてしまうとなれば、どうなってしまうでしょう。そのマイナスを補うために、他のことで儲けを出すようにするしかありません。しかし、歯科保険診療では全ての治療の価格が決められてしまっています。歯科医院に価格決定権はありません。さらに、金属代以外の治療費も、諸外国と比べて異常に低く設定されており、そもそもが医学的な手順に沿った治療が不可能な状態です。そうなると、歯科医院が保険診療で経営するにあたり、以下のような傾向がさらに進むかもしれません。

  • 治療の手技を簡略化(手順の省略。要するに手抜き)して治療時間を短縮し、患者さんを沢山見れるようにする。
  • 材料を安価で粗悪なものに変更する。
  • 手抜き診療ばかり行っていて技術力がないのに、儲けのために粗悪な自由診療(材料だけ保険適用外でも内容は保険レベル)の治療を勧める。
  • 残せる可能性のある歯でも抜いてインプラントにする。
  • わざとトラブルが起きやすい治療を行い、トラブルが起きたら再治療をすることで、治療回数を稼ぐ。(例:すぐ取れるつめものを入れて、定期的に交換させる。)
  • 滅菌など患者さんにわかりにくい部分は、徹底的に手を抜く。
  • 治療が必要のない歯に処置を行う。(例:むし歯でない歯をむし歯といって削る。)
  • 患者さんを沢山診るために、人件費の安い無資格の歯科衛生士や歯科助手に治療行為をさせる。(違法)
  • 保険点数の架空請求(行っていない治療を行ったことにする)を行う。(違法)

これまで歯科医師の良心によって何とか支えられてきた保険診療ですが、国の医療関係者への甘えはひどすぎると思います。当院でも保険診療では良い治療が出来ないため見限っており、ほとんど自由診療で行っていますが、今後はそういった歯科医院がどんどん増えてくると考えられます。

正直者は損する制度

問題は歯科治療で上記のような手抜きや不正をしても、患者さんからするとわかりにくいです。そのため、手抜きや不正をしても、評判が悪くなったりはほどんどしません。ということは、手抜きや不正を沢山するほど儲かって、手抜きや不正を極力少なめにする歯科医院ほど経営的に厳しくなって潰れてしまいます。50年以上に作られた健康保険制度は、現代の事情にはそぐわない状態になっており、大きな問題です。

国は医療費抑制しか考えていない。

医療費抑制のために保険診療点数を下げることが、医療の現場にどれほど大きく影響するのか、国は全く考慮していないと言えるでしょう。

無駄遣いはもちろんいけませんが、治療費にも適正価格というものがあります。歯科医院も会社です。利益が出ないと経営が上手くいきません。そこで働く歯科医師やスタッフの生活もあります。経営に余裕がないために、生活が不安で手につかない精神的余裕のない医療者に大切な自分の体を預けられますか?

もし、保険診療での医療費が増やせないというのであれば、医療者に負担を背負わせるのではなく、健康保険のシステムを根本的に見直すべきだと考えます。

ページトップへ戻る

  1. HOME
  2. 歯科崩壊

診療科目