テレビに出演いたしました。

平成28年5月24日(火)の雨上がりの「Aさんの話」〜事情通に聞きました!に出演いたしました。日本の歯科医療の実態について、今より少しでも皆様にご理解いただいて、より良い歯科治療を受けていただけることを願って取材を受けました。取材でお話させていただきました内容につきまして、簡単にまとめさせていただきます。

ラバーダムとは?

ラバーダムラバーダムとは、左の図のように歯にゴムのシートをかける処置です。歯を唾液から隔離することで、むし歯の再発を減らし、歯の寿命を延ばすことができる非常に重要な処置です。

※)ラバーダムは基本的にむし歯治療のための処置です。歯周病治療や外科処置では使用出来ません。また、当院では根管治療時には100%ラバーダムを使用しておりますが、つめものの治療時には使用できない状況もありますので、適切な診断の上で使用するかどうかを決めております。ラバーダムを使用できない状況でのむし歯治療時は、ZOOと呼ばれる防湿器具を変わりに使用しています。

ラバーダムは日本ではほとんど行われていません。

歯の寿命を延ばすためには重要な処置であるにもかかわらず、日本ではほとんど行われていません

神経の治療時のラバーダムの使用率

【神経の治療を専門とする日本歯内療法学会の会員】※1)約2,000人
 ・必ず使用する…25%
 ・時々使用する…25%
 ・全く使用しない…50%
【日本歯内療法学会員以外】※1)約10万人
 ・必ず使用する…5%
 ・時々使用する…40%
 ・全く使用しない…55%
【アメリカ合衆国の根管治療専門医】※2)
 ・ラバーダム防湿の使用率…90%以上

(参考文献)
1)吉川ら:根管処置におけるラバーダム使用の現状. 日歯内療誌, 24:83-86,2003.
2)Whitten BH et al : Current trend in endodontic treatment : report of a national surgery. J Am Dent Assoc,127:133-1341,1996

ラバーダムは歯の治療のうちで基本的な処置であって、特に高度なものではありません。医学的に正しいむし歯治療(根管治療)においては、使用できる状況であればラバーダムは使って当たり前であって、その先にもっと高度なテクニックがあり医師として技術の研鑽を積むのです。基本的なラバーダムですら行われていない日本では、世界標準の根管治療を受けることは非常に難しいと言えます。

どうして日本ではラバーダムが使われないのか。

私は、根本的には日本の保険制度が問題だと考えています。日本の保険診療では、出来高払いで同じ診療行為をすれば結果はどうあれ治療費は全く同じです。つめもの1つ○円、根管治療1本○円、入れ歯1つ○円という具合です。そのため、1つの治療について、手早く手抜きでささっと終わらせれば時間当たりの儲けが増え、丁寧に時間を掛けて精密に治療すれば、時間当たりの儲けが減ります。保険診療では、手順を省略して雑に治療すればするほど儲かり、時間を掛けて丁寧に精密な治療するほど貧乏になるといった矛盾した制度なのです。医師として、技術の研鑽に努めれば努めるほど、国からの診療報酬といった形での評価は下がるのです。医師として、これほどむなしいことはないでしょう。

その上、歯科の診療報酬は医療費削減政策の下、命にかかわることが少ないため、異常な低価格に抑えられており、手抜き診療でなければ保険診療のみで医院経営を行うことは100%不可能です。以下に日本の歯科医療費と世界の歯科医療費の比較の表を示します。

日本、アメリカ、スウェーデン、ドイツの主な歯科医療費

  日本(保険) アメリカ スウェーデン ドイツ
歯周治療 27,540円 161,400円 59,500〜76,500円 112,746円
根管治療 前歯 4,680円 100,000円 30,600〜34,000円 31,900円
根管治療 臼歯 8,700円 150,000〜200,000円 51,000〜59,500円 -
インレー 臼歯 6,470円 50,000〜100,000円 71,400〜85,000円 53,700円
かぶせ 前歯 25,000円 150,000〜200,000円 95,200〜122,400円 -
かぶせ 臼歯 12,450円 150,000〜200,000円 110,500〜127,500円 65,900円
ブリッジ 37,690円 450,000〜600,000円 178,500〜197,200円 128,000〜 181,000円
メンテナンス 5,050円 12,000〜33,000円 10,000〜56,100円 -


(出典 歯界展望 2007-1、ドイツ 2006Bema より試算)

この表を見ると、日本の歯科医療費が世界の5分の1〜20分の1程度しかないことがわかります。ここで勘違いしてはいけないのは、保険診療において世界と同じ治療を激安で受けられているわけではなく、世界標準の数分の1程度の質の医療しか受けられていない可能性があるということです。

そんな中、ラバーダムの治療費は0円なので、行う歯科医師がいなくなっても当然です。お金にならないどころか経営的には行うと赤字になるため、本来必要であるはずの処置が省略されてしまっているということです。そして、今回のテレビ放送ではラバーダムが主題となりましたが、ラバーダムだけが特別なのではなく、ほとんどの処置についても同じような状況です。要するに、日本は健康保険システムにより、異常に安価ですが、非常に医療の質が低くなってしまっている状態なのです。これは歯科医師のモラルだけで解決できる問題ではなく、制度として国を挙げて解決すべき問題です。

保険診療は最低限度の治療。

日本の健康保険制度は、WHO(世界保健機関)で優秀な制度だと評価されています。世界では貧しければ医者にもかかれず薬も買えないという国もある中で、全ての国民がいつでも自由に医療を受けられるということは本当に素晴らしいことだと思います。それは、憲法にもある健康で文化的な最低限度の生活を送るためには有用でしょう。

しかし、日本は経済的に世界で3本の指に入るほど豊かな国である中で、保険診療により安価ではあっても、医療の質が非常に低くなってしまっているということは、逆に言えばしっかりお金を払ってでも良い医療を受ける機会が奪われてしまっているとも言えます。

山下歯科ではどうしてラバーダムを行っているのか。

私が大学を卒業して、臨床に携わって最初に感じたことは、実際の診療においては、大学で習った治療法はほとんど行われていないということでした。日本の歯科医療のレベルが著しく低いことを知り、驚き、そして失望しました。

勤務医の頃から、私はとにかく丁寧に良い治療を行うことを心がけて研鑽を積みました。ラバーダムについてもその一環で行っておりました。しかし、保険診療内で丁寧に治療をすると腕が上がれば上がるほど利益は下がる一方でした。開院当初の保険診療をメインとして診療を行っていた際は、1月数十万円の赤字が出てしまう状態で、とても保険診療による制限の中では医学的に正しい治療を継続的に提供することは不可能だとわかりました。

山下歯科では、保険診療の中で何でもかんでも良い治療を提供することが出来るとは考えていません。ボランティアのような診療では、経営は成り立たず、継続的に良い治療を提供できないためです。山下歯科では自由診療をメインとして診療を行い、高度な治療を行うにあたり、適正な治療費を患者さんにご負担いただくという形を取っております。

良い治療を受けるために、患者さんはどうすればいいか。

日本の財政を考えると、医療費は削減され続けるでしょう。そうなると、健康保険内のみで良い治療を受けるということは現実的ではありません。

かといって、自由診療の歯科医院であれば良い治療が受けられるかというと、そんなことはありません。自由診療であれば、歯科医師は自由に値段をつけられます。腕が良くても良心的な値段をつける歯科医師もいれば、腕が悪くてもぼったくりの価格をつける歯科医師もいるでしょう。値段の高い・安いだけでは歯科医師の腕は判断できません。

所属学会や認定医・専門医、セミナーの受講歴、博士の肩書きなども結局はあまり当てになりません。上の表の日本歯内療法学会の会員のラバーダム使用率が非常に低いことからも明らかです。

今回、ラバーダムがテレビで取り上げられたため、とりあえずラバーダムを形だけ使う歯科医師が出てくるかもしれません。ラバーダムを使っていても、その他の処置もきっちり行わなければ治療の成功率は上がりません。

最終的には、歯科医師としっかりコミュニケーションが取れる歯科医院で実際に歯科医師の診断・治療方針などを聞いてみて、納得できるかどうかという所で、患者さんご自身との相性が良さそうな歯科医院を探していくしかないのではないでしょうか。

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