歯科医院で病気をうつされるかもしれない。感染管理は非常に大切です。
歯科医院での治療には、以下のような特殊性があり、感染のリスクを伴います。それらによるリスクを最小限にするために、感染管理がとても重要です。
むし歯も歯周病も細菌感染が原因です。
むし歯は、むし歯菌が歯の表面に感染することにより、むし歯菌が産生した酸が歯を溶かす病気です。
歯周病は、歯周病菌が歯と歯ぐきの境界周辺に感染し、歯の周りの歯ぐきや骨に炎症を引き起こし、破壊してしまう病気です。
歯科の二大疾患であるむし歯も歯周病もどちらも細菌感染が原因となる病気で、細菌感染への対策が非常に重要です。
例えば、患者さんのお口の中を触って、細菌に汚染された器具で、別の患者さんのお口の中に入れると、歯科医院内でむし歯や歯周病の細菌を移しあう院内感染を引き起こす可能性があります。また、清潔な器具の操作を行わないせいで、お口の中の細菌を体内(例えば歯の根っこの管の中)に押し込むことで、病気を引き起こしてしまうことがあります。
これらは、医療者が感染対策を行ったことによって引き起こされる病気であり、それは厳しい言い方をすれば医療者が病気を作ったと言えますし、病気を治すべき場所で病気になってしまうなんて、本来あってはいけないことです。
軽く見られがちで、患者さんには伝わりにくい感染管理ですが、最も重視するべきことだと考えています。
歯科では唾液があり、血が出やすいお口の中を治療します。
お口の中には、唾液で満たされています。唾液は、血液から作られる体液です。また、歯周病の方は歯ぐきから血が出る症状もあったり、処置も鋭利な器具を使ったり、抜歯などの外科処置も多いため、出血を伴う処置が沢山あります。唾液や血液は、その人が感染している細菌やウイルスが含まれており、危険な感染源となりえます。よく言われるのが、B型肝炎・C型肝炎などのウイルスは、血液などの体液から移ることがあり、感染管理をしっかりしていないと、歯科医院にかかったために重大な病気になってしまったなんてことが起こりえます。
昔の素手で治療していた時代の歯科医師の職業病として肝炎が挙げられていたという事実からも、歯科医院と体液からの感染は切り離せません。病気を治すために来たのに、病気になってしまったというのは、やはりあってはならないことです。
治療中にエアロゾルが飛散します。
歯を削るときや歯石をとる機械を使用するとき、機械から注水しますが、その勢いでお口の中の唾液や血液が霧状になってお口の外へ飛び出していきます。これをエアロゾルといいますが、もちろん、お口の中の体液を含むものなので、感染源と考えられます。自分のエアロゾルで感染することはありませんが、他の患者さんのエアロゾルは感染源となりえます。適切な対処が必要です。
歯科は複雑な器具を多数使用する外科系の診療科です。
歯科治療にはほとんど投薬治療はなく、ほぼ全てが歯や歯ぐきの処置(外科手術)を行う外科系の診療科です。そのため、歯科用ハンドピースを含め、複雑な器具を多数使用します。複雑な器具は当然滅菌も難しく、さらに多数使用するため、滅菌頻度も自然と多くなり、滅菌のシステムを組み上げることがしっかりとした知識がないと非常に難しいです。