大阪市都島区の大阪精密入れ歯治療室。歯科技工士不足問題について。

BPS義歯治療の流れ

歯科技工士不足問題

歯科技工士が不足してきています。その原因について、説明していきます。

歯科技工士不足問題は深刻です。

「時給600円」「異常な低賃金」...入れ歯作る歯科技工士がなり手不足のピンチ 過酷な勤務実態という記事が2025年6月1日にMBSから記事が出て、Yahooニュースにも取り上げられてそれなりに反響がありました。

要約すると、歯科技工士という職種が低賃金長時間労働によりなり手が不足してしまっており、どんどん減ってきているという内容です。

まさに現実に起こっていることで、近い将来、健康保険で皆さんのかぶせものや入れ歯を作る人はいなくなってしまう可能性があります。

低賃金の原因(入れ歯編)

歯科技工士が低賃金になる原因は、まさに健康保険制度にあります。例として、総入れ歯の健康保険診療での診療報酬を見てみましょう。以下の歯科診療報酬早見表の7ページにある有床義歯の所にある総義歯が総入れ歯の保険点数です。2,424点と書いてあるので、1点10円のため、24,240円となります。一応、厚労省はこの診療報酬のうち、歯科医師と歯科技工士の取り分は基本的には3:7ということにしておりますが、なぜか強制力はないため、実態は7:3くらい(歯科医師の)になってしまっています。歯科技工士の取り分である技工料は10,000円くらいが標準的なのではないでしょうか。

さて、歯科技工士が総入れ歯を作るために行う作業工程はどれほどあるでしょうか。以下、健康保険レベルの一般的な作業内容を書き出します。

  • 個人トレーと呼ばれる型取りの道具を製作する。
  • 石こう模型を製作する。
  • ろう堤と呼ばれるかみ合わせ記録装置の製作する。
  • かみ合わせの記録より上下の模型を咬合器という装置に装着する 。
  • 人工の歯を咬合器上に並べて、ろう義歯と呼ばれる入れ歯の元を作る。
  • 仮合わせしたろう義歯を修正する。
  • 入れ歯の鋳型を石こうで作る。
  • 入れ歯の鋳型にプラスチックを流し込む。
  • 石こうを割り出して入れ歯を取り出す。
  • 入れ歯をきれいに研磨する。

簡単に書いていますが、上記の工程を全て行うのには、かなりの手間と時間がかかります。探していただければ、Youtubeなどで実際の技工作業の動画もあります。数時間は確実にかかる作業です。材料費・設備の費用・電気代・水道代・家賃など様々なコストがかかった上で、残りが歯科技工士の取り分になるため、かなり薄利になってしまいます。常識的に考えて、国家資格を持った専門家が、オーダーメイドの人工臓器を数時間つきっきりで作業をして製作した報酬がたった10,000円という制度自体が狂っていると言わざるを得ません。

 

低賃金の原因(かぶせもの編)

次に、かぶせものの健康保険診療での診療報酬を見てみましょう。歯科診療報酬早見表の2ページにある金属歯冠修復の所にあるFMC 金パラというのがいわゆる一般的な銀歯です。1,596点と書いてあるので、1点10円のため、15,960円です。入れ歯と比べると、たった一本でこの値段だととても高いように感じられますが、金属代が非常に高価です。金銀パラジウム合金という金属を使いますが、2025年6月現在の価格は1g 3,000円程度で、2~4gぐらい使用するので、6,000~12,000円程度は金属代になってしまいます。平均的に3g使用するとして9,000円は金属代です。すると、残りは6,960円となります。入れ歯と同様、価格の基準は厚労省の基準は守られないので、歯科技工士の取り分である技工料は1,500円~2,500円くらいが標準的だと思います。

さて、歯科技工士がかぶせものを作るために行う作業工程はどれほどあるでしょうか。

  • 石こう模型を製作する。
  • かみ合わせの記録より上下の模型を咬合器という装置に装着する 。
  • かぶせものの形をろうでハンドメイドで製作する。
  • 石こうで鋳型を製作する。
  • 鋳型に金属を流し込む。
  • 石こうを割り出してかぶせものを取り出す。
  • かぶせものを研磨する。
  • 咬合器上でかぶせもののかみ合わせの最終チェックをする。

簡単に書いていますが、上記の工程を全て行うのには、かなりの手間と時間がかかります。探していただければ、Youtubeなどで実際の技工作業の動画もあります。数時間は確実にかかる作業です。金属代以外の材料費・設備の費用・電気代・水道代・家賃など様々なコストがかかった上で、残りが歯科技工士の取り分になるため、かなり薄利になってしまいます。常識的に考えて、国家資格を持った専門家が、貴金属を使ったオーダーメイドの人工臓器を数時間つきっきりで作業をして製作した報酬がたった2,000円という制度自体が狂っていると言わざるを得ません。貴金属を使った既製品のアクセサリーですら15,000円は高価でないということからも、想像がつきやすいと思います。

なぜ3:7の取り分が守られないか。

なぜ、厚労省はこの診療報酬のうち、歯科医師と歯科技工士の取り分は基本的には3:7ということにしているのにまもられないのでしょうか。

これは簡単な話で、歯科健康保険の診療報酬が全てにおいて激安すぎて、歯科医院側がとにかくコストダウンを行っているという現実があるためです。健康保険診療では、全ての治療が全国統一価格になっています。凄腕の歯科医師でも研修医でも診療報酬は同じであるし、丁寧に治療しても、雑に治療しても、診療報酬は同じです。良い材料を使っても、粗悪な材料を使っても、診療報酬は同じです。歯科医師は公務員ではないし、利益が出なければ歯科医院は倒産します。利益を出そうと思えば、安い材料で雑に治療することが正解になってしまいます。そしてそれは、健康保険制度の元では常識です。善意では経営は成り立ちません。

そうなると、歯科技工士の技工物の質は低くても問題なく、とにかく安い技工料の歯科技工所が求められるということになります。安い技工料では、数をこなさなければ利益が出ないため、手早く仕事をこなして品質が下がるということになります。品質を下げてでも価格を下げることが出来る歯科技工所が生存競争で有利ということになってしまい、値下げ合戦が行われてしまいます。

今後、歯科保険診療の状況が良くなることはありえません。

日本の財政状況を見てみると、支出の上で社会保障費(主に年金・次に医療費)が莫大な額となってしまっていますが、毎年赤字です。医療費は、医科の医療費がうなぎ上りで、歯科は何十年も据え置きです。日本を持続させるためには、上がり続ける社会保障費を何とかしなければならないという課題があります。こんな状況で、人が死なないマイナー科の歯科に関して、歯科保険診療を状況を改善するための予算が回ってくることはありえません。今までもありませんし、今後もありえません。

歯科技工士が減り続けて、歯科技工物の供給不足になって技工料が上がって来たとしても、今度は歯科医師の取り分が減ってしまうため、歯科医師が保険診療で入れ歯やかぶせものを作らなくなってくることも考えられます。当院も、健康保険診療では、医学的に適切な処置が出来ないと判断して、ほとんど自由診療で治療を行っている状態です。今後、歯科全体が健康保険診療をやめていくという方向へ行くと考えられます。

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