歯科保険診療はどんどんまずい方向に進んでいます。
大分前に、以下のリンクにある歯科保険診療崩壊という記事を書きました。あれから、何年か経っていますので、現状の歯科保険診療について、説明していきます。最近、新聞の記事にもなっておりますので、その記事も一緒に紹介いたします。
歯科保険診療の現状について、説明いたします。
大分前に、以下のリンクにある歯科保険診療崩壊という記事を書きました。あれから、何年か経っていますので、現状の歯科保険診療について、説明していきます。最近、新聞の記事にもなっておりますので、その記事も一緒に紹介いたします。
増え続ける社会保障費の問題について、医療費の抑制のための政策を公約に挙げる政党まで出てきました。増え続けているのは、基本的にほとんど医科で歯科は常に抑制されてきましたので、今更ということになりますが、今後、医科の医療費を抑制して歯科の医療費を増やすなんてことはあり得ないので、今後も歯科の医療費は抑制され続けるでしょう。
歯科保険診療については、全般的にまずいことになっていますが、例としてわかりやすく、今話題にもなっているので、かぶせものの材料で説明していきます。
以前の記事で、歯科の保険診療の点数設定がおかしく、例えば、金銀パラジウム合金の仕入れ値以下の保険点数しか設定されていないというお話をいたしました。現在もその状況は改善されておらず、さらに最近のインフレーションによる貴金属価格の高騰の影響により、状況はかなり悪化していると言えます。
金銀パラジウム合金は、12%の金を含んでいます。一応、貴金属に分類される合金です。金銀パラジウム合金は、金の含有量が低く(金は合金をさびにくくする性質があります。)、お口の中の唾液に錆びてしまうため、錆びたところからむし歯が出来てしまうことや、パラジウムのアレルギーを起こす可能性の高さより、非常に問題が多いです。貴金属系の材料であれば、金合金がベストなのですが、金銀パラジウム合金は、財政による妥協的な材料であります。しかし、その金銀パラジウム合金ですら、今では高価な材料となってしまい、保険点数が材料費以下で、歯科医師は患者さんにお金を渡して、治療をボランティアでさせていただいているという状況になってしまっています。
さて、そうなってくると、歯科医師は当然、金銀パラジウム合金を使った治療を控えるようになってきます。そうなると、どうなるでしょうか。まずは、かぶせものの材料を変えるということを検討すると思います。代わりになる材料について、記載していきます。
銀がメインとなる合金です。金は入っていません。従来、小児の銀歯に使われている素材です。錆びにくくするような金属は入っていないため、とても錆びやすいです。銀の食器がすぐに黒くなってくるのと同じイメージです。お口の中の唾液に常にさらされて、さらに銀合金のかぶせものは、下手をすれば、セットして1日で真っ黒というレベルのものです。銀の価格も高騰していますが、
ハイブリッドレジンと呼ばれるセラミックスとプラスチックを混ぜた素材のブロックをCAD/CAMと呼ばれるコンピューターの削りだしによって作るかぶせものです。銀歯と違って、比較的歯の色このかぶせものの問題は山積みですが、まずは素材が弱いことと接着剤と引っ付きにくいということです。素材の強度が高い(金属やジルコニア)が接着力が弱い場合や、素材の強度はほどほどだったり低いがその分、接着力が高くて、強度を増やせる素材(コンポジットレジンやガラスセラミックス)という場合は、比較的長持ちしやすいことはわかっています。しかし、ハイブリッドレジンCAD/CAM冠はそのどちらも弱いため、破損・脱落のリスクが非常に高いです。とても長期安定して歯の代わりとして機能するとは言えないような代物で、実際、海外では仮歯扱いの素材です。CAD/CAMという作り方が、まだ手作業で作るより適合精度が低くなりがちなのと、この作り方により、前述のとおり接着力が下がってしまう(詳細は省きますが)ので、問題だらけの治療法です。リンクしている記事もありますが、トラブルがとても多いです。良い点は、金属を使わないので、安くしやすいということだけですね。
ハイブリッドレジンCAD/CAM冠があまりにも駄目すぎるため、その後に保険適用になったプラスチックのかぶせものです。最もわかりやすい欠点は、消しゴムのような色をしているということでしょう。前歯に使うことは非人道的で出来ないレベルです。強さは、ハイブリッドレジンCAD/CAM冠よりはましのようですが、所詮、プラスチックの仮歯レベルで、長期予後は良くないことが予想されます。(新しい素材過ぎて、未知数です。)
チタンで作るかぶせものです。チタンはインプラントでも使われるもので、生体親和性が良いイメージがあります。また、チタンは貴金属ではなく、安価な金属です。チタンの問題は、作るのに高度な技術が必要で、作れる歯科技工士があまりいないことや、硬すぎてかんだ時に歯を痛める可能性が高いことです。硬すぎるのは自由診療で使われるジルコニアも一緒ですし、金銀パラジウム合金もそこまではいかなくても割と硬いです。硬い素材は壊れなくて良さそうですが、そこは壊れなくても、それより弱い歯がやられてしまうということを考えないといけないので、バランスが大事です。)
以上、最近のかぶせものの素材の移り変わりについて説明しましたが、医学的な適正さよりお金のこと(コストダウン)ばかり考えていることが良くかかると思います。
安くて性能の良い材料を開発して、保険適用すればよいのではないか?と思われるかもしれませんが、これは、論理的には絶対にありえないことなのです。まず、保険診療の医療費を減らしたいということは、自由診療(患者さんの自腹)を増やした方が良いということになります。保険診療に良い材料を適用してしまったら、それがなければ自由診療で治療していた患者さんも保険診療で治療してしまい、結果、医療費が増えるということになってしまいます。
そのため、わざと保険診療では粗悪な材料を適用するということに論理的にはなってしまいます。銀歯が嫌で白くしたいなら自由診療をどうぞ、すぐ壊れるCAD/CAM冠が嫌なら自由診療へどうぞといった感じです。
20年ほど前、私が学生をしている頃は、「コンビニより多い歯医者」なんてメディアで言われていて、歯科医師が余っていると言われている状況でした。正確には、保険診療をベースにすると歯科医師が多かったという話です。世界的な水準で行くと、普通レベルでした。国は、それから、歯科医師国家試験の合格率を減らし、歯科医師の数を減らしました。20年たった今、歯科医師は少なくなりすぎて、特に勤務医が全然いない状況になってしまっています。歯科に雑誌の記事のリンクをはります。記事にもありますが、歯科医師にとっては、人不足により給料が上がり、いいことのように思えます。しかし、人不足(人件費高騰)でかつ診療報酬の単価が上がらないということになれば、今まで以上に薄利多売、要するに診療の手抜きをせざるを得ないということになってしまいます。健康保険の問題の一つとして、下手くそが治療しても凄腕が治療しても、雑にやっても丁寧にやっても治療費は変わりません。そうなると、知識のない歯科医師が雑に治療した方が儲かるということになってしまい、きちんと丁寧に治療するメリットが歯科医師側からどんどんなくなってしまいます。患者さんにとっては、歯科医師数が減りすぎることは良くないことですね。
当院のサイトで散々書いていることですが、ラバーダムをしない治療が横行しており、日本の根管治療は世界標準治療より成功率が大幅に低いことが統計的に示されてしまっております。新たにニッケルチタンファイルの保険点数が新設されましたが、150点(1,500円)です。ニッケルチタンファイルは、使いまわしすると劣化して根管内で破折するリスクが高いので、基本的にはどんどん使い捨てするものです。ニッケルチタンファイルは、1本1,500円程度しますが、当院では標準的に1つの歯を治療するのに3~5本使い捨てするので、やはり材料費以下の点数設定であり、値段を考えた人は算数が出来ないということがよくわかります。
昔からそうなのですが、医学的に適切な治療を保険診療で受けることは、無理(そもそも、まともな治療が保険適用になっていない・手抜きの方が儲かる)になってきており、状況はどんどん悪化していると思っていただいたて良いと思います。私は、こういった状況に嫌気がさしたので、基本的には自由診療で医学的に適正な治療を適正な価格で提供するようにしています。
保険診療でも薄利でなんとか良い治療を提供していらっしゃる先生も、さすがに心が折れてしまい、当院のように自由診療に切り替えてくるでしょう。そろそろ、歯科の保険診療が当たり前でなくなってくることを覚悟していかなくてはいけなくなってきました。